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東京地方裁判所 平成6年(ワ)13066号 判決 1997年9月16日

原告

飯塚吉彦

被告

アンドレ・ルドゥー

主文

一  被告は、原告に対し、金一八七七万七二六二円及び内金一八〇一万七二六二円に対する平成三年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金六三八五万八八三一円(六四六一万八八三一円の内金請求)及びこれに対する平成三年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、自転車を運転中、交通事故に遭い、負傷した原告が、加害車両の運転者である被告に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)

1  本件事故の発生

原告(昭和三八年七月二八日生)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、頭部外傷、両膝打撲挫創、右胸部打撲、外傷性気胸、多発性肋骨骨折、肝破裂等の傷害を受けた(甲一の1)。

事故の日時 平成三年四月一三日午後四時五〇分ころ

事故の場所 千葉県浦安市舞浜一番地九先交差点(以下「本件交差点」という。)路上

加害車両 普通貨物自動車(千葉四〇ね九九六九)

右運転者 被告

被害車両 足踏み式自転車

右運転者 原告

事故の態様 本件交差点道路を直進中の被害車両と、右折中の加害車両とが衝突した(なお、事故の詳細については当事者間に争いがある。)。

2  責任原因

被告は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の後遺障害

原告は、平成五年一二月一〇日症状が固定し、自賠責保険の事前認定手続により、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害等級表」という。)所定の七級五号に該当する旨の認定を受けた。

4  損害の一部填補

原告は、任意保険及び自賠責保険から合計三九二七万〇一〇七円の填補を受けた。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(過失相殺)と原告の損害額である。

1  本件事故の態様(過失相殺)

(一) 被告の主張

本件事故は、競技用自転車を運転し、競技の練習のため、横断歩道外側の車道を進行中の原告が、本件交差点を右折進行していた加害車両の有無、動静に注視せず、漫然、進行したため、生じたものであるから、原告にも相応の過失がある。

したがって、原告の損害額を算定するに当たっては、原告の過失を斟酌すべきであり、原告には、一〇パーセントの過失がある。

(二) 原告の認否及び主張

原告が本件交差点の車道上を進行していたとする点は、否認する。

本件事故当時、横断歩道上を進行しており、原告には、過失はない。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 治療費(文書費を含む。) 二二九二万四〇七〇円

(2) 入院付添費 一一万五〇〇〇円

原告の入院中、原告の近親者が二三日間付添看護を行った。近親者の入院付添費は、一日当たり五〇〇〇円とするのが相当であるから、二三日間で右金額となる。

(3) 入院雑費 二五万三五〇〇円

原告は、平成三年四月一三日から同年九月二八日まで浦安中央病院、順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院に入院した(合計一六九日間)。

入院雑費は、一日当たり一五〇〇円とするのが相当であるから、一六九日間で右金額となる。

(4) 通院交通費 一二四万四九八〇円

(5) 休業損害 二八五万四八〇〇円

原告は、本件事故当時、訴外東京ベイヒルトン株式会社に勤務し、月額二三万七九〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故により事故日から平成四年五月末日までの一年間休業を余儀なくされたものであるから、その間の原告の休業損害は、右月収額の一年分として、前記金額となる。

(6) 逸失利益 六四二三万六五八八円

原告は、平成五年一二月一〇日、後遺障害等級七級五号の後遺障害を残して症状が固定し(症状固定時二八歳)、五六パーセントの労働能力を喪失したものであり、賃金センサス平成六年男子大学卒全年齢平均の年収額である六七四万〇八〇〇円を基礎とし、六七歳までの三九年間の原告の逸失利益の現価をライプニッツ方式により算定すると、前記金額となる。

(7) 慰謝料 合計一一五〇万〇〇〇〇円

本件事故による原告の慰謝料としては、入通院慰謝料として三〇〇万円、後遺障害慰謝料として八五〇万円の合計一一五〇万円とするのが相当である。

(8) 弁護士費用 七六万〇〇〇〇円

(二) 被告の主張

原告の損害額については、いずれも争う。

(1) 休業損害について

原告は、被告から休職期間中の休業損害の支払を受けており、全額について既払いとなっている。

(2) 逸失利益について

原告の収入額は、本件事故後及び症状固定後も減少しておらず、順調に昇給しており、現実の減収は生じていないだけでなく、将来の減収を認めるに足りる十分な事情もない。

また、原告の肝臓切除の程度は、一〇分の二程度であり、残肝は一〇分の八程度あり、肝機能検査の数値も正常であって、労働能力に喪失をもたらすような機能低下は生じていない。また、胆のう摘出によっても、通常、労働能力の喪失は生じない。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様(過失相殺)について

1  前記争いのない事実等に、甲三二、三七、乙一ないし四、一八、被告本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、千葉県浦安市富岡方面から東京湾方面に向かう道路(以下「甲道路」という。)と、甲道路から同市富士見方面に向かう道路(以下「乙道路」という。)とが交差する、信号機により交通整理の行われている丁字型交差点である。

甲道路(幅員一四メートル)は、片側二車線の直線道路であり、各車線の幅は約三・二メートル(両側に外側線が〇・六メートル幅で設置されている。)であり、その両側には幅六・〇メートルの歩道(ガードレールが設けられている。)が設置されている。

乙道路は、片側二車線(幅員一二・八メートル)の道路であり、各車線の幅は、約三・二メートルであり、その両側に幅四・〇メートルの歩道が設置されているほか、本件交差点の手前には、横断歩道と自転車用横断帯が設けられている。

本件交差点道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時に制限されている。

本件道路の路面はアスファルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、雨のため、湿潤していた。

甲道路の見通しは、前方、後方とも良好である。

本件事故後、現場道路にスリップ痕は認められなかったが、ガラス片が散乱していた。

(二) 被害車両は、ドロップハンドルの競技用自転車である。

原告は、自転車競技の練習のため、被害車両を運転し、東京湾方面から浦安市富岡方面に向かい、本件交差点の甲道路の第一車線の左側端を進行し、対面信号機の青色表示に従い、本件交差点を直進しようとしたところ、対向車線から右折してきた加害車両を発見し、衝突を避けるため、左側に避けようとしたが、間に合わず、車道上において加害車両の左前部に被害車両前部が衝突し、原告は、路面に転倒した。

被害車両は、本件事故により、ハンドル、フレームが凹損し、走行不能状態となった。

(三) 被告は、本件交差点の道路を毎日通行しており、道路状況はよく知っていた。

被告は、本件事故当日は、休みであったが、勤務先のホテルに買い物に行くため、加害車両を運転し、浦安市富岡方面から東京湾方面に向かい、甲道路の第二車線を時速約五〇キロメートルで進行中、本件交差点に差し掛かり、対面信号機が青色を表示していたことから、右折の合図を出し、前車のバスに続き、時速約二〇ないし二五キロメートルで右折を開始したところ、加害車両の左前部の衝撃があり、直ちにブレーキを踏み、歩道に寄りながら、約七・七メートル進行した横断歩道付近において停止したが、すでに被害車両に衝突していた。

被告は、本件事故当時、右折方向に気を取られ、衝突するまで被害車両に気づかなかった。

加害車両は、本件事故により、左前部が凹損し、フロントガラスが破損していた。

(四) 原告は、本件事故当時、本件交差点道路の横断歩道上を進行していたと主張し、これに沿う証拠(甲三二、三七)もあるが、原告は、捜査段階において、本件事故直前、甲道路の第一車線左側端を進行していたと明確に述べていること(乙三)、また、被害車両が横断歩道上を進行していたとすることは、乙一、一八、被告本人供述とも十分に符合しないことから(仮に、本件事故当時、原告が甲道路の車道から乙道路の横断歩道を進行していたとすると、歩道上のガードレールもあって、原告としては、相当左に進路を変更しなければならないが、その旨の供述が甲三二に全くなく、奇異である。)、容易に措信できず、本件事故当時、被害車両は、甲道路の第一車線上を進行しており、同車線上において加害車両と衝突したものと推認される。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様(過失相殺)について検討するに、被告は、本件交差点を右折するに際し、専ら右折方向にのみ気を取られ対向車両の動静に注意せず、漫然右折進行したものであるから、本件事故発生についての主要な過失がある。

他方、原告としても、本件交差点を通過するに当たり、右折車両の動静を十分注視せず、漫然直進した点に過失がある(加害車両は、左前部に衝突痕があり、また、前認定の衝突箇所からみても、本件事故は、加害車両の右折開始直後の事故とも言い難く、原告としては、加害車両を発見することは、容易であったものというべきである。)。

そして、原告及び被告双方の過失を対比すると、後記の原告の損害額から一〇パーセントを減額するのが相当である。

二  原告の損害額

(一)  治療費(文書費を含む。) 二二九二万二三一三円

甲一の2、二の2、三の2、四の2、五の2、六の2、七の2、八の2、一〇、一一、一二の2、一三、一四の2、一五の2、一六の2、一七の2、一八の2、一九の2、二〇の2、二一の2、二二の2、二三、三三、三四の1ないし4によれば、右金額が認められる。

(二)  入院付添費 一一万五〇〇〇円

甲二四、三二、弁論の全趣旨によれば、原告の順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院入院中、原告の実母が二三日間付添看護を行ったことが認められ、近親者の入院付添費は、一日当たり五〇〇〇円とするのが相当であるから、二三日間で右金額となる。

(三)  入院雑費 二四万〇五〇〇円

甲一の1、二の1、三の1、四の1、五の1、六の1、七の1、一二の1によれば、原告は、平成三年四月一三日から同年九月二八日まで浦安中央病院、順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院に一六九日間、その後、平成四年九月一七日から同年一〇月二日まで浦安病院に一六日間、各入院したことが認められ(合計一八五日)、入院雑費は一日当たり一三〇〇円とするのが相当であるから、一八五日間で右金額となる(原告の請求額の範囲内で右金額を認める。)。

(四)  通院交通費 一二四万四九八〇円

甲二五、弁論の全趣旨により認められる。

(五)  休業損害 二六六万七三七五円

甲三二、乙六ないし一六、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 原告は、本件事故当時、日本ヒルトン株式会社に勤務し、事故前の三か月間に合計五八万二三〇〇円の収入を得ていたところ(一日当たり六四七〇円)、本件事故により、事故日の翌日である平成三年四月一四日から同年一一月三〇日までの二三一日間休業し、その後、平成三年一二月一日東京ベイヒルトン株式会社に復職勤務し、同年一二月一日から平成四年二月二九日までの三か月間に合計八二万四六八五円(一日当たり九一六三円)、同年三月一日から同年五月三一日までの三か月間に合計六八万八五〇〇円(一日当たり七六五〇円)の収入を得ていたが、本件事故により有給休暇を使用し、当初の三か月間に六日、その後の三か月間に七日、それぞれ休業し、また、同年六月から同年八月までの三か月間に合計七一万四六〇〇円(一日当たり七九四〇円)の収入を得ていたが、同年九月一七日から同年一〇月一八日までの間に本件事故により、有給休暇を含めて合計三三日間休業した。

すると、その間の原告の休業損害は、次式のとおり、一八六万五一一八円となる。

6,470円×231日=1,494,570円

9,163円×6日=54,978円

7,650円×7日=53,550円

7,940円×33日=262,020円

1,494,570円+54,978円+53,550円+262,020円=1,865,118円

イ 原告は、本件事故による休業のため、平成三年夏期分として一二万一一五七円、同年末分として五七万三〇〇〇円、平成四年冬期分として一〇万八一〇〇円の各賞与を減額された(合計八〇万二二五七円)。

ウ したがって、原告の休業損害は、二六六万七三七五円(ア、イの合計)となる。

(六)  逸失利益 二六七六万二四六五円

前記争いのない事実等に、甲二の1、三の1、四の1、五の1、六の1、七の1、八の1、一二の1、一四の1、一五の1、一六の1、一七の1、一八の1、一九の1、二〇の1、二一の1、二二の1、三二、三六、三八、四四ないし四六、乙五、一九、二一、順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院、浦安病院に対する各調査嘱託の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、外傷性肝破裂等の傷害を受け、その後、輸血後慢性C型肝炎等に罹患し、順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院において、肝臓右葉部分を切除し(一〇分の二程度。切除量二九六グラム)、さらに胆のう摘出術を受けたものであり、平成五年一二月一〇日、症状が固定し(症状固定時二八歳)、自賠責保険の事前認定手続により、後遺障害等級七級五号の後遺障害認定を受けたが、C型肝炎については今後も再発のおそれが否定できず、本件事故後、疲れやすくなり、平成七年七月二年間の約束で単身で渡独したが、食事等の日常生活において現在も種々の規制を受けていることが認められ、右切除割合及び本件事故前後の原告の収入額の推移(甲二六、二七、三九の1、2、四一の1ないし3、四二、四三)等をも照らし合わせるならば、原告の後遺障害等級は、後遺障害等級表九級一一号(「胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」)に相当し、その労働能力喪失率は、三五パーセントと認めるのが相当である。

そして、原告は、症状固定時二八歳であったから、賃金センサス平成五年大卒男子二五歳ないし二九歳の平均年収額である四四九万三四〇〇円を基礎とし、六七歳まで三九年間の逸失利益の現価をライプニッツ方式(係数一七・〇一七〇)により算定すると、次式のとおり二六七六万二四六五円となる。

4,493,400円×0.35×17.0170=26,762,465円

(七)  慰謝料 合計九七〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の部位程度、その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、本件事故による原告の慰謝料としては、入通院慰謝料として二〇〇万円、後遺障害慰謝料として七七〇万円の合計九七〇万円とするのが相当である。

(八)  右合計額 六三六五万二六三三円

三  過失相殺

前記一2記載の点から、原告の損害額から一〇パーセントを減額すると、その残額は、五七二八万七三六九円となる。

四  損害の填補

原告が任意保険及び自賠責保険から合計三九二七万〇一〇七円の填補を受けたことは、当事者間に争いがないから、右填補後の原告の損害額は、一八〇一万七二六二円となる。

五  弁護士費用 七六万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合し、原告の請求額の範囲内における本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、七六万円と認めるのが相当である。

六  認容額 一八七七万七二六二円

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、一八七七万七二六二円及び弁護士費用を除く内金一八〇一万七二六二円に対する本件事故の日である平成三年四月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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